AIの基礎 入門

データData

AIが学ぶ材料になる記録一行一行

ポイント
  • データは世の中で起きたことを書き残した記録です。AIが学ぶ材料はすべてここから出てきます。
  • 記録の一行がひとつの出来事で、その行を作る欄のひとつひとつが、その出来事の特徴です。
  • 数字だけがデータではありません。文章も写真も音も、クリックの跡も、欄に収まれば同じ材料になります。
  • ある行に正解まで一緒に書かれていればラベル付きのデータです。教師あり学習はこうした行を糧に育ちます。
  • 書かれなかった出来事はなかったことになります。抜け落ちた記録は、AIの目には最初から見えません。
目次

1たとえで理解する

家計簿を開くと、一行に一件ずつ書かれています。5月3日、電車代、170円。その下の行には5月3日、おにぎり、320円。一行だけを見ればたいした意味はありません。ところが行が百件ほど積み上がると、今月の交通費がいくらか、週末に出費が跳ねるかどうかが自然に見えてきます。データとはまさにこの一行一行のことです。記録される前の出来事はどれだけ大きく起きていても扱えず、記録された瞬間から数えたり比べたり学んだりできるものになります。日付欄を書き忘れた行や金額を書き間違えた行が混ざっていれば、合計もそれにつられて狂います。

2くわしく

一行は出来事、欄はその出来事の特徴

家計簿の一行には、日付、使った場所、金額、支払い方法が並んで書かれます。一行が「その日起きた出来事ひとつ」をまるごと収め、欄はその出来事を作る断片です。データを表として描くとき、横の並びを行、縦の並びを列と呼びます。

AIを作るときは、この欄に別の名前が付きます。予測に使う材料の欄を特徴、当てなければならない答えの欄をラベルと呼びます。同じ表でも、どの欄を答えに決めるかによって、まったく違う問題になります。金額を答えに決めれば支出を予測する問題になり、支払い方法を答えに決めれば決済手段を当てる問題になるからです。

欄をどう設計するかが性能を大きく左右します。「5月3日」という日付をそのまま置くのと、そこから曜日と週末かどうかを取り出して欄を新しく作るのとでは、結果が変わります。週末に出費が跳ねるという事実は、曜日の欄がなければ見えてこないからです。

数字でなくてもデータです

写真一枚もデータです。画面上の点ひとつひとつが明るさの値で書かれていて、その値が縦横に並んだものが写真です。音も同じように、時間とともに上下する値の並びで、文章は断片に分けられたあと番号に変わります。

アプリを使っている間に残る足跡もデータです。どの画面を開いたか、何秒とどまったか、何を押さずに通り過ぎたかが行として積み上がります。人がわざわざ書かなくても機械が勝手に書き残す記録が、今日のデータの大きな部分を占めています。

形が違っても扱い方はひとつに集まります。どんな材料も結局は数字の集まりに変えてから、はじめてモデルに入れられます。写真と音と文章をひとつのモデルが一緒に扱えるのも、ここに理由があります。

正解が書かれた行と書かれていない行

家計簿に「これは必要な出費」「これは無駄遣い」と手で印を付けた行があるとします。この印がラベルです。ラベルが付いた行が多ければ、AIに「こういう行は無駄遣い」と教えることができます。

ラベルを付ける作業は、たいてい人が行います。写真に写った物に名前を付け、文章に感情を印し、音に何の音かを書き添える作業です。手間がかかり費用もかさむので、データを集めることよりラベルを付けることの方が難しい場合がよくあります。

そこでラベルのない記録をそのまま使う方法も一緒に発展しました。似た行どうしをまとめて群れを見つけたり、文章の一部を隠して隠れた部分を当てさせたりして、自分で答えを作りながら学ばせるやり方です。

書かれなかった出来事はなかったことになります

家計簿にカード決済だけ書いて現金を書き忘れていたなら、その家計簿で計算した一か月の支出は実際より少なくなります。計算が間違っているのではなく、材料がすでに一方に偏っているのです。

AIでも同じことが起きます。昼間に撮った写真だけを集めれば夜が存在しない世界になり、特定の地域の人の声だけを集めれば、別の話し方は最初から学ぶ機会がありません。モデルはデータにないものを自分で想像して埋めたりしません。 抜けた場所はただ空のまま残り、その場所で見当違いの答えが出ます。

だからデータを見るときは、何が入っているかと同じくらい、何が抜けているかを一緒に見なければなりません。誰が記録されなかったのか、どんな状況がまるごと抜けているのかを確かめる作業が、性能の点数より先に来ることがよくあります。

集める作業より整える作業に時間がかかります

実際の記録はいつも乱れています。日付の書式が行ごとに違ったり、同じ店の名前が何通りにも書かれていたり、金額欄が空の行が混ざっていたりします。うっかり二重に登録された行もあります。

こうしたものをそろえる作業をデータの前処理と呼びます。空欄をどう扱うか決め、同じものを違う書き方をしている表記をひとつにまとめ、極端に外れた値を確かめる作業です。現場でいちばん時間がかかる段階は、たいていここです。

材料がそろっていなければ、どれだけ良いモデルを使っても結果がぶれます。モデルを変えるよりデータを整える方が性能を大きく上げることがよく起きるのも、そのためです。

3もう少し正確に

データは観測した事実を決まった形式で書き留めた値の集まりです。表のように行と列がはっきりしたものを構造化データ、写真や文書のようにそうした枠のないものを非構造化データと呼びます。学習に使う目的に合わせて集めて整えた束は、データセットと別に呼びます。データとデータセットを混ぜて使うことが多いですが、前者は材料そのもの、後者はその材料を特定の問題向けにまとめた包みです。

たとえがずれる部分もあります。家計簿は自分で書くので何が抜けているかおおよそ分かりますが、AIが使うデータはたいてい他人がずっと前に集めたものなので、どんな基準で選ばれたのかさえ分かりにくいです。また家計簿の一行はそれ自体で意味が通じますが、モデルが受け取る値は意味の消えた数字なので、人が目で見て異常に気づくことがずっと難しくなります。だから現場では、データをどこでどう集め、何を除いたかを文書に残しておくことを大切にしています。

4やってみる

5よくある誤解

  • データとは数字のことだと思われがちですが、実際は文章も写真も音もクリックの跡もすべてデータであり、今日のAIが学ぶ材料はむしろこちらの方が多いです。

  • データはそのままの事実だから中立だと考えられがちですが、実際は何を書いて何を書かないか決める瞬間から、人の選択が入っています。

  • たくさん集めさえすればよいと思われがちですが、実際は重複し間違い一方に偏った記録が増えると、性能はかえって落ちます。

7ひとこと要約

つまりデータは世の中で起きたことを書き残した記録一行一行であり、その行に書かれたことまでしかAIは学べません。

誤りや、もっと良いたとえがありますか? 修正を提案する · 最終更新2026-09-02