データ品質Data Quality

学習に使う資料がどれくらい信頼できるか

ポイント
  • データ品質は集めた資料がどれくらい信頼できるかを見ることです。どれくらい多いかとは別の問いです。
  • 見る切り口はいくつもあります。値が正しいか、抜けはないか、古くなっていないか、つじつまが合っているか、重なっていないかを別々に見ます。
  • 資料に残った傷は学習を経てモデルの癖として固まります。 あとから学習方法だけ変えてもなかなか消えません。
  • 良い資料かどうかは使い道が決めます。 ある場所では十分な資料が、別の場所では使えない資料になります。
  • 検査は一度で終わりません。資料が入り続ける間、品質も揺れ続けます。
目次

1たとえで理解する

夏のプールは開場前にまず水をすくいます。桶にくんでにごり具合を目で見て、沈んだかすがないか調べ、消毒薬の数値が決められた範囲に入っているかを測ります。滑り台がどれだけ良くても、くんできた水が基準を超えられなければその日は開けられません。

AIを作るときに集める資料も、この水と同じです。土台となる水がにごっていれば、上に何を乗せてもにごったままです。データ品質は、その水を一桶すくって覗き込むことです。

水質検査が一項目で終わらないように、資料の検査も切り口がいくつもあります。値がきちんと記録されているか、空いている欄はないか、いつくんだ水なのか、昨日測ったものと今日測ったものが食い違っていないかを、切り口ごとに別々に見ます。

2くわしく

検査の切り口は五つに分かれる

一つ目は値が正しいかを見る切り口です。身長を書く欄に体重が入っていたり、日付の月と日が逆に書かれていたりする資料が、ここで引っかかります。人が手で書き写した資料であるほど、こういう傷が多く混ざります。

二つ目は抜けがないかを見る切り口です。空欄がぽつぽつある程度なら埋めるかその行だけ除いて使えますが、一つの欄が丸ごと空いていれば、その欄を使うこと自体をあきらめなければなりません。

三つ目はどれくらい古い資料かを見る切り口です。何年も前にくんだ水で今日のプールを判断できないように、世の中が変わっているのに資料だけ昔のままなら、モデルは昔の世界をずっと説明し続けます。

四つ目と五つ目は、つじつまが合っているか、重なっていないかを見る切り口です。同じことを二か所で違うように書いていないか、同じ記録が何通りも混ざって入ってきていないかを見ます。同じ記録が三回入っていると、その記録の声だけ三倍大きくなってしまいます。

傷はそのまま下流へ流れていく

にごった水をそのまま入れておくと、あとで良いろ過網を付けても、すでに入った土は取れません。資料も同じです。間違って貼られた正解データで学習したモデルは、その間違いを規則として覚え、それ以降は覚えた規則どおりに答えます。

もっと困るのは、傷が目立ちにくいことです。全体の資料のうちごく一部だけが間違っていると、表に出る点数は問題なく見えます。それなのに、その一部と似た状況が実際に入ってきたときだけ見当違いの答えを出します。使う側からすると、理由の分からない失敗のように見えます。

だから学習を回す前に資料を覗き込む時間は惜しくありません。学習を終えたあとに傷を見つけると、資料を直して最初からやり直さなければならず、ずっと高くつきます。

良い資料の基準は使い道が決める

プールに満たす水と飲む水では基準が違います。資料も同じです。近所の店の一日の売上をざっくりつかむには、いくつか抜けている帳簿でも十分ですが、在庫を自動で発注するのに使うなら、一件も抜けてはいけません。

品質を測る前に、この資料で何をするかをまず決めなければならない理由がここにあります。使い道が決まれば、どの切り口をどれくらい厳しく見るかが自然に決まります。すべての切り口を同じように厳しく見ようとすると手間が際限なくかかり、肝心な切り口を見落としてしまいます。

同じ資料を二か所で使うとき、片方では使えて片方では使えない資料になることもよくあります。

検査は回り続けなければならない

水は一日過ぎただけでも状態が変わります。資料も同じです。新しく入ってくる資料の形式がある日こっそり変わったり、値を入力する側が単位を変えたりすると、その日から入った資料が丸ごとずれてしまいます。

だから資料が入り続ける場所では、検査も回し続けます。空欄がどれくらいあるか、値がいつもの範囲に収まっているか、一日に入った件数がいつもと似ているかを毎日測っておき、いつもと違えば知らせが鳴るようにします。人が目で確かめるのは最初の一回だけで、そのあとは機械が代わりにくんでくれます。

しばらくうまく動いていたサービスがある日から変な答えを出すようになったら、モデルを調べる前に資料が入ってくる経路から見るのが順序です。

3もう少し正確に

データ品質は、ふつう正確性、完全性、一貫性、適時性、一意性、妥当性といったいくつかの切り口で測ります。切り口ごとに測り方が違い、空欄の割合のように数えるだけですぐ出るものもあれば、値が実際と合っているかのように、別の基準資料と突き合わせてはじめて分かるものもあります。正解データが付いた資料なら、正解データそのものの品質も別に見なければなりません。同じ資料に複数の人が付けた正解データがどれくらい一致しているかを測って見積もる方法がよく使われます。

たとえがずれる点もあります。水はろ過すればまた澄みますが、資料は一度間違って記録された値を元に戻す方法がないことがよくあります。消えた場所は消えたまま残り、残ったものだけで最初からやり直さなければなりません。水質検査には国が決めた一つの基準がありますが、資料にはそういう共通の合格ラインがないという違いもあります。基準はその仕事に合わせて自分で決めなければならず、その基準を決めること自体が品質管理の半分です。

品質と偏りは別の問題だという点も押さえておく価値があります。値が一つも間違っておらず空欄もない資料が、片方に大きく偏っていることがあります。品質検査をすべて通っても、その資料が誰を映しているかは別に確かめなければなりません。

4やってみる

5よくある誤解

  • 資料は多いほど良いと思われがちですが、実際には傷が混ざった資料を増やすと傷も一緒に増えるので、少なくてきれいな資料に劣る結果になります。

  • 品質の問題は学習をうまくやれば覆い隠せると思われがちですが、実際には間違って記録された値をモデルが規則として覚えてしまうので、学習を長く回すほど深く固まります。

  • 一度整理しておけば終わりだと思われがちですが、実際には新しい資料が入ってきた瞬間から品質はまた揺れるので、検査を回し続けなければなりません。

7ひとこと要約

つまりデータ品質は学習に注ぐ前に資料を一桶すくって切り口ごとに調べることで、ここでこぼれ落ちた傷はそのままモデルの癖として残ります。

誤りや、もっと良いたとえがありますか? 修正を提案する · 最終更新2026-09-02