ベクトルVector
複数の項目の値を決まった順に並べた数字の束
- ベクトルは複数の項目の値を決まった順に並べた数字の束です。順序が変わると別の意味になります。
- 数字一つではなく束だからこそ、一つの対象を複数の面から一度に表せます。
- 項目がいくつあるかを次元と呼びます。AIが扱うベクトルはふつう数百から数千項目です。
- 二つのベクトルがどれだけ似ているかは同じ位置どうしを見比べて計算します。だから項目数が同じでないと比べられません。
- AIの中では文も画像も音もすべてベクトルに変えて扱われます。モデルが知る世界の唯一の形です。
目次
1たとえで理解する
名刺一枚には決まった場所ごとに情報が書かれています。一行目に会社、その次に部署、その下に肩書き、最後に地域が来るというようにです。二人の名刺を並べれば、同じ行どうしを見比べるだけで二人がどれくらい似た立場にいるか大まかに分かります。ベクトルはこうして項目の順序を決めておき、値だけをずらりと書いたものです。
大事なのは順序です。ある名刺は二行目が部署なのに別の名刺は二行目が地域だと、並べても比較になりません。ベクトルも一番目の場所の意味、二番目の場所の意味が誰にとっても同じでなければ計算が成り立ちません。
行数が違う名刺どうしも比べられません。項目が五つの名刺と三つの名刺は、並べても組が合いません。
2くわしく
順序が決まった数字の並びです
ベクトルを見るとき人が真っ先に見落とすのが順序です。値が三つあるなら、それは適当な数字三つではなく一番目の項目の値、二番目の項目の値、三番目の項目の値です。場所を入れ替えると、まったく別のものを指してしまいます。
この決まりのおかげで計算がとても単純になります。二つのベクトルを足すには、一番目どうし、二番目どうしを足すだけで済みます。コンピューターがこの計算を一度に何千個もこなせるのも、場所がきちんとそろっているからです。
項目の数がそのまま次元です
項目が二つなら紙の上の点一つで描けます。三つなら部屋の中の一点です。項目が四つを超えると絵には描けませんが、計算は同じようにできます。人の目で見られないだけで、数学が止まるわけではありません。
AIが使うベクトルはふつう数百から数千の項目を持ちます。項目が多いほど細かな違いまで含められますが、保存する場所と計算量が一緒に増えます。そのため用途に応じて項目数を減らした軽いベクトルを別に作って使うこともあります。
足したり引いたりすると向きが生まれます
ベクトルは点であると同時に向きでもあります。原点からその点まで矢印を引くと、向きと長さが出るからです。二つのベクトルを足すと矢印をつなぎ合わせた先に届き、引くと一方の点からもう一方への向きが出ます。
この性質はAIで大きく使われます。意味を含んだベクトルどうしを引くと「この二つの間の関係」に当たる向きが出て、その向きを別のベクトルに足すと似た関係にある位置に届きます。国名から首都へ向かう向きがいくつもの国で似た形で表れるという観察はここから来ています。
似ている度合いは角度で測ります
二つのベクトルがどれくらい似ているかを見るときは、距離より向きを主に見ます。原点から伸びる二本の矢印がなす角が狭ければ似ていると見なし、開いていれば違うと見なします。
なぜ長さではなく角度なのでしょうか。同じ話を長く書いた文章と短く書いた文章は矢印の長さが違いますが、指す向きは似ているからです。向きだけを見れば分量の違いに左右されず、内容の似ている度合いをつかめます。
モデルの中ではすべてがベクトルです
モデルは文字も画像も直接扱えません。断片に切られた文章は埋め込みを通ってベクトルになり、写真は明るさの値が並んだベクトルになり、音は時間ごとの強さの値のベクトルになります。
層を一つ通るたびにこのベクトルは別のベクトルに変わります。モデルがしていることは結局、ベクトルを受け取って別のベクトルに変える作業の連続です。私たちの目に見える文字は、最後にもう一度人の側へ戻された結果にすぎません。
途中で扱うベクトルの中身を人が覗いても、何が書かれているかは読み取れません。数字が並んでいるだけで、意味は他のベクトルとの位置関係にしか宿らないからです。
3もう少し正確に
ベクトルは同じ種類の値を順番に並べた一次元の配列で、項目の数を次元と呼びます。ベクトルを何行も積み重ねると行列になり、行列をさらに積み重ねるとテンソルになります。モデルの中の計算の大半は、このベクトルと行列を掛け合わせる作業です。
似ている度合いを角度で測る方法をコサイン類似度と呼びます。二つのベクトルが完全に同じ向きなら1、まったく関係ない向きなら0に近い値が出ます。距離を直接測る方法も一緒に使われますが、どちらが優れているかはベクトルをどう作ったかによって変わります。
たとえがずれる点もあります。名刺の各行には「部署」「地域」といった名前が付いていて、人が読めます。モデルが使うベクトルの各位置には名前がありません。学習が勝手に決めた軸なので、何を表すのか誰にも説明できません。また名刺は人が書き込みますが、モデルのベクトルは学習の過程で自然に決まった値です。名刺は一人につき一枚ですが、モデルの中では文の断片ごと、層を通るたびにベクトルが次々と作り直されます。
4やってみる
5よくある誤解
ベクトルはただの数字の一覧だと思われがちですが、実際には位置ごとに意味が決まっていて、順序を変えると別のものを指してしまいます。
項目が多いほどよいと考えられがちですが、実際には保存と計算のコストが一緒に増えるので、用途に合った大きさを選ぶほうがよいのです。
異なるモデルが作ったベクトルも比較できると思われがちですが、実際には位置の意味が互いに違うので、並べて測っても意味がありません。
7ひとこと要約
つまりベクトルは項目の順序を決めておき、値だけをずらりと書いた数字の束で、AIの中を行き交うすべてがこの形をしています。
誤りや、もっと良いたとえがありますか? 修正を提案する · 最終更新2026-09-02