レッドチーミングRed Teaming

公開前にわざと突破を試み弱点を探す点検

ポイント
  • レッドチーミングは、世に出す前にわざと乗り越えてみる点検です。守る側の目ではなく、突破する側の目で見ます。
  • ガードレールがあらかじめ張っておくものだとすれば、レッドチーミングはその柵を実際に押してみるものです。二つは対で回ります。
  • 作った人は自分の設計の内側で見てしまいます。だからこそ別の人が見ることで新しい穴が見つかります。
  • 何をどこまでしてよいか、範囲とルールを先に合意してから始めます。点検であって攻撃ではありません。
  • 結果は突破できたという記録ではなく、直す一覧です。直してまた乗り越えてみることが繰り返されます。
目次

1たとえで理解する

引っ越したばかりの家で、ある夕方わざと外に出てぐるりと一周見て回ります。住む人の目ではなく、この家を狙う人の目で見るのです。

すると普段は見えないものが見えてきます。裏口のかんぬきが緩んでいて、花壇側の窓の鍵は古いままで、塀が低いところには室外機が置かれて足場になっています。植木鉢の下に置いた予備の鍵は、誰もが真っ先にめくってみる場所です。

確かめるだけで、壊しはしません。目に留まった場所を書き留めて一つずつ直します。全部直したら、数日後にもう一度一周します。AIを世に出す前にする点検は、この一周と同じです。

2くわしく

守る目と突破する目は見え方が違います

作った人は自分が描いた流れに沿って確かめます。このボタンを押せばこうなり、この要求が来ればこう止まる、という順序どおりにです。ところが問題になる場所はたいてい、その順序の外にあります。誰もそう使うとは思わなかった使い方が通り道になります。

突破する側の目は順序を無視して見ます。ここからあそこへ飛んだらどうなるか、二つの機能を妙な順番でつなげたらどうなるか、とても長い会話の最後ではどうなるかを問います。同じシステムなのに、見えるものが変わります。

そのためレッドチーミングは、作った人が自分でする点検とは別に置きます。作った人も参加しますが、設計を知らない人や背景の異なる人が混ざってこそ、それぞれ違う穴が出てきます。

範囲を先に決めて始めます

始める前に合意しておくことがあります。どのシステムまでが対象か、実際のユーザーの資料に触れてよいか、どこまで確かめて止めるか、見つけた内容を誰にどう知らせるかです。家を見て回っても扉は壊さないのと同じです。

記録も一緒に決めます。何を試して、どんな条件で通ったのかを書き留めておかなければ、直す側が再現できません。たまたま一度通ったのか、安定して通るのかも何度か試してみないと分かりません。

この合意がなければ、点検が事故になります。範囲を書き留めることが、手続きの形式ではなく安全装置である理由です。

何を乗り越えてみるのか

乗り越えてみる場所はセキュリティ一つではありません。規則の外の答えが出るか、ユーザーや会社の情報が答えに混ざって出るか、確認されていない内容を自信満々に語るか、読み込んだ資料に隠れた指示をそのまま従うか、集団によって結果が分かれるか、持たせた道具を見当違いに使うかを合わせて見ます。

場所ごとに必要な人が違います。言葉の機微を見るには言語と文化を知る人が、道具の誤用を見るにはそのシステムを知る人が必要です。一つのチームだけでは全部を見られないので、複数の背景を混ぜます。

人が手で行う方式と、たくさんの試みを自動で作って回す方式を合わせて使います。自動のほうは広く洗い出し、人のほうは自動では思いつかない角度を探します。

結果は直す一覧です

点検が終わって出てくるのは、突破できた事例の集まりです。ここで大事なのは個数ではなく種類です。似た事例が百個出るより、違う種類が十個出るほうが広く見た点検です。

各事例は直す側へ渡されます。あるものは検査規則へ、あるものは学習資料へ、あるものは機能をそもそも外す判断へつながります。直した事例は次の点検でもう一度確かめる一覧に入ります。一か所ふさいだ場所が、別のところを直しているうちにまた開いてしまうことがよくあるからです。

一度では終わりません

モデルを入れ替えたり、新しい機能を付けたり、参照する資料を変えたりすると、前の点検の結論はもう一度確かめる必要があります。家を一度手入れしたからといって、翌年も見て回らなくていいわけではないのと同じです。

そして何度回っても全部を確かめきることはできません。点検の目標は穴をゼロにすることではなく、どれくらいの危険が残っているかを知ったうえで世に出すことです。知らずに出すことと知って出すことは、まったく違う状態です。

3もう少し正確に

レッドチーミングという言葉は、セキュリティと軍事訓練から来ています。守る側をブルーチーム、攻める側をレッドチームに分けて競わせた方式から名前を借りたものです。ソフトウェアのセキュリティで行う侵入試験と似ていますが、違う点もあります。

いちばんの違いは、対象がコードの穴ではなく言葉と判断だという点です。成功と失敗の境目があいまいで、同じ事例でも人によって判定が分かれ、同じ試みが毎回同じ結果になるとも限りません。そのため一度通ったことだけで結論を出さず、何度も繰り返して通る割合を見ます。判定基準をあらかじめ書いておくことも点検の一部です。

たとえがずれる点もあります。家は扉と窓の数が決まっていて、その気になれば全部見て回れますが、言葉で入ってくる道は数え切れないほど多く、全部確かめるということ自体が成り立ちません。家は一度直せばその場所は直ったままですが、モデルは別のところを手入れしているうちに、前にふさいだ場所がまた開いてしまうことがあります。そして家の点検は一人でしてもかまいませんが、AIの点検は背景の異なる複数の人が見てこそ、それぞれ違う穴が現れます。

4やってみる

5よくある誤解

  • レッドチーミングはハッキングだと思われがちですが、実際には範囲とルールを先に合意して行う点検で、見つけた内容を直す側へ渡すところまでが一つのまとまりです。

  • 一度大がかりに行えば終わると思われがちですが、実際にはモデルや機能が変わるたびにふさいだ場所がまた開くので、繰り返す必要があります。

  • 突破できた事例をたくさん見つけるほど良い点検だと思われがちですが、実際にはどんな種類をそもそも見落としているか、カバーする範囲を広げるほうが大切です。

7ひとこと要約

つまりレッドチーミングは世に出す前に狙う側の目で一周見て回ることで、残る危険を知らないままではなく知ったうえで世に出そうとするものです。

誤りや、もっと良いたとえがありますか? 修正を提案する · 最終更新2026-09-02